花に潜って

三姉妹の話と、わたしの時間

双子を妊娠×悪阻で入院(2)双胎判明、そして入院へ

5w1dで、第二子妊娠、と思って行った産婦人科の初回エコー。

先生がなにやら、ん?ん?と言っている。何か問題でもあるのか、健常な妊娠ではないのか、と思ってにわかドキドキし始めていると、先生が言った。

「ふたつあるね。双子かな」

予想外の言葉が耳に飛び込んできて、一瞬頭がポカーンと空白になった。

「ううん、どうみてもやっぱりふたつある。双子でまちがいないと思う。はい、じゃあ」

ウィーンとエコー写真を感熱紙に印刷する音とともに、エコーの時間は終了。

えっ。えっ。えっ…?  追い付かない頭のままでお腹を拭かれ服を戻して台を降りる。えっ?

デスクに戻った先生の前に座っていると、黒いエコー写真を渡されて、はいこれね、と言われる。これねっていわれても。ひきつった笑顔のまま自分の表情がかたまってしまっているのがわかる。

カルテに何やら書き込みながら(長女を産んだ産院なのでわたしのカルテがある)先生は、さくさくと説明した。

  • 妊婦健診は途中まではするが、多胎は扱える病院が限られているので、市内の総合病院を紹介する(ここは個人病院の産婦人科
  • 多胎は切迫早産になりがちなので産前の入院はよくある
  • 多胎は悪阻が重い場合がある、かも(断定ではない)

という主旨のことを簡潔にいわれ、この日の診察はおしまいに。

(まじか…まじか…まじなのか…)

と、思考回路が語彙を失う。何から、何を足がかりに考えはじめればいいのかが、さっぱりわからないと、そうなるんだわ。

 

この病院のそばにスーパーがあったので、とりあえず落ち着け自分と唱えつつ買い物をして帰ることに。

ここですでにスーパーの食料品売場の匂いが不快に感じた。うっ、まずい、もう悪阻の始まりなのかな。だとするとこの後色々食べられなくなるから、食べられそうなものを買っておかなければ!と考えて、悪阻のド定番(?)グレープルーツジュース、りんご、富美家の鍋焼うどんを買った。

 

帰宅後、もらったエコー写真を取り出してみる。

黒い背景に、白い点がふたつ並んでいる。素人がみても、なにかがふたつあるというのは一目瞭然の写真。どう見間違えてもひとつでないのはたしか。

ううむ。夢ではないらしい。

 

そして二日後、おいしくいただいたあとに鍋焼うどんをリバース。りんごもリバース、ジュースもリバース。お茶もリバース。※嘔吐と書くと生々しい上に今後何度となくかかなければならないことなので、片仮名で

洗面器をかたときも離せない。トイレで吐けば処理が簡単なのはわかっているのだが、あまりにも急に吐き気がくるので、トイレに駆け込むのが間に合わないのだ。長女の悪阻のときにも同じことになり、リバース専用として100均の洗面器を夫に買ってきてもらった。その洗面器、後々は掃除用として活躍(排泄物で汚れたこどもの服を洗ったりなど)していたものの、ふたたびリバース専用として返り咲く。いや、格下げ?

 

長女妊娠中のつわりは、吐きながらもなんとか緑茶(綾鷹限定で)とカットパイナップルだけは食べることができたので、SUNTORYとフィリピンのパイン農家さんと輸入に携わる方々には足を向けて眠れないと思うくらい、パイナップル、パイナップル、綾鷹、パイナップル、綾鷹…でどうにか生き延びていた。合間合間に激辛カップヌードルとか、レタスとか、ししゃもとか、食べれる!と思ったものを家族に頼んで調達してもらい、ほとんど吐くのだがそれでも果敢に食べていた。ほかのものは吐いても、綾鷹とパイナップルだけはなぜかもどさないので、嘔吐<摂取、だった。

がしかし、第二子そして第三子のこのときは、パイナップルも綾鷹もおーいお茶も生茶も、まったく歯がたたない。水分が摂取できない、がんばって摂取しても、飲んだのと同じかそれ以上の液体を30分以内にリバース。液体がだめなら固体から水分をとろうと試み、果物のひとかけら、ゼリーのひとさじなどを口にしてみるが、そのあと小さなコップ一杯分くらいの液体(胃液含む)をリバース。なんでやねん!と内心思う。なんでリンゴ一口食べただけやのにその5倍の体積の液体が出てくんのよ、 どうなってんのよ。

あきらかに、嘔吐>>摂取。打つ手がなく、あっというまに排尿が1日に1回になり、歩くのも、大袈裟ではなく「ヨタヨタ」という感じになり、こりゃだめだ。病院に相談しよう、漢方を処方してもらったり点滴を打ってもらえば楽になると聞いたことがある。

そんなわけで急遽夫に休みをとってもらい、長女もつれて四日前に行ったばかりの産院へ。駐車場から院内への短いはずの道のりが、おそろしく長く、手をつきながら壁づたいになんとか歩く。うう、気持ちが悪い。唾液もとまらないのでビニール袋を持って歩いている(そこへ適宜唾を吐くため)。身体にふきつけてくる冬の風そのものが気持ち悪い。産院の赤茶色の通路の色が気持ち悪い。というふうに、なにもかもが気持ち悪い。

 

尿検査と血液検査の後、通されて、先生に、固形物はもれなく吐くしお茶もジュースも吐いてしまってもうよれよれ、と伝える。よれよれすぎるあまり、敬語が使えない。そして出た検査結果は「ケトン+3」というもの。

ケトンについて、詳しくは検索してもらった方が早くて正確と思うのでここではあまり触れませんが、ざっくりいえば、飢餓状態を示すもの。なんだ、3か。ひどいひとは5とかって聞いたことあるし、長女の悪阻のときも3だったじゃないか。なら、まだ大丈夫なのかな。などと自分を励ましながらも、それ以上診察室の椅子に座っていることができず、先生のデスクのはじっこに突っ伏。あまりの気持ち悪さと、空腹なのか脱水なのか、身体に力が入らないせいで。

見かねた看護師さんが、奥のベッドに寝かせてくれた。そして先生が枕元までやってきて話してくれたのは、

  • 点滴に通うこともできるが、長女ちゃんのお世話の融通がきくなら入院したほうが良い
  • 紹介する予定だった総合病院へ、このあと電話をして入院できるよう手配する
  • ということはもう夫に話したから、手配がすむまでここで横になってていいからね

ということだった。はあ、はい、ぺっ、はあ、ふんふん。(唾液をはきながらでしか会話できない)

未就園児の長女をどうするのか、とよぎったが、それよりも入院できるという安心の方が正直大きかった。とにかく管理してもらえるのだ。なにか飲まなければ!生きるために!というプレッシャーから解放されると思ってほっとしたのだった。

こどもの頃に見たテレビ番組かなにかで、ヒトは1ヶ月食べなくても死なないが、水がなければ1週間以上もたない、というのを見たことがある。昔のメディア情報だから、その真偽のほどはわからない。が、どうしてもそれを思い出すと怖かった。絶対になにかしらの水分をとらねばと。

でも点滴を打ってもらえるなら、飲まなくても食べなくても生きられる。ああ、よかった。

 

夫が長女を抱いて、「入院やってな…」と、しょんぼり、心配、安心、不安がごちゃまぜになった顔をしてやってきたのをよく覚えている。そして「長女ちゃんのことは心配しないで、なんとかするからこっちにまかせて。病院でゆっくり休んでな」と言ってくれた。お言葉に甘えるしかない。あとはまかせたぜ…

果たして5w5dという妊娠初期にして、悪阻をもととする入院が決定した。多胎の悪阻は重い説に一票やで。