花に潜って

三姉妹の話と、わたしの時間

双子を妊娠×悪阻で入院(5)経口での飲食再開

一日中点滴されているからといって、なにも食べなくていいわというわけではない。私はもともと食べることが大好きだし、口から食事、せめて水分をとれるようになって退院するのがこの時点での目的だ。

 

妊娠7w~8wの頃。

わずかでも吐き気がましなときを狙って、食べられそうなものを思いついた片っ端から家族に調達してきてもらい、こわごわ試すことにした。

このとき、これはいけるか?となったのは、

でした。梅干しとか炭酸ジュースとか飴とかフルーツとか、いろいろ聞きますが、それらも個人差というか、あらゆる悪阻にきくわけではないようで。私はどれもだめでした。食べる前からすでに、だめだとわかる感じ。

私は唾液悪阻がひどかったため、唾液を吸収するようなパサパサのものがヒットしたもよう。味にくせがなくカロリーもなく、リバースするときに喉にひっかからないようにとろりとひたもの…というので赤ちゃん用せんべい。食べている間は唾液つわりを忘れさせてくれるスグレモノ。イエーイ。いいもの見つけたぞと思った。

そして水分という観点からはゼリー飲料。が、これもファイブミニのゼリーに限る。他のはダメ。

どちらも食べたあとはもれなくリバースするけど、なんにも食べずにいて、不味い体液をドバドバ吐くよりかは、食べたものをもどす不快感のほうがまだがまし。という理屈でこつこつと口にしていました。改めて考えるとなんてかなしい食べ方だと思うけど、しかたがなかった。

胃液と胆汁はほんとうに不味い。しかも、酸性が強いので歯がやられるよと看護師さんから忠告があった。酸性…ということは、つまり歯が溶けてしまうということだ。吐いたら歯を磨くか、難しければゆすぐのは必ずやってね、とのこと。

歯磨きなんてもちろんできるわけがない。なにもつけていないブラシを口に突っ込んだだけで嘔吐のトリガーなので、おそろしくてできない。そのためこの時期はデンタルリンスで口をブクブクして歯磨きがわりにしていた。いや、代わりには全くならないと思うけど、なにもしないよりは歯に良い気がして、気休めといったところか。歯ブラシを口に入れられるようになったのは、入院して1ヶ月後くらいのことだった。

 

吐くものが体液から食べたものに代わったところで、胸焼けはひどいし、喉は度重なる逆流にダメージを受けたのか出血してるしで、胸~喉にかけて焼けるような痛みが続いていた。一体何重の苦しみをくれるつもりなのか、悪阻よ。

胸焼けを主治医に相談すると、冷やすとましになるはずと言われる。そこで保冷剤をかりることにした。凍った保冷剤を胸に抱き締めていると、たしかに焼けるような不快感がすこしだけましになった。季節は真冬なのだが。

ある日、保冷剤を交換にきた中年の看護師さんが言った。

「背中のね、胃の真裏のあたりのツボを押すと吐き気がましになる人がいるんよ。やってみたらどうかな」

とにかく不快要因がすこしでも減るなら、できそうなことならなんでもやりたいので、早速試すことにした。

100均にマッサージ用のゴムボールが売っていると家族から連絡があり、早速調達してもらう。ゴルフボール大の、やわらかめのピンポンボールみたいなもの。

それを胃の真裏と思われる背中におしあてて、そのまま傾けたベッドにもたれて、過ごす。眠るときもやってみた。(ちなみに、寝台を完全にフラットにしてしまうと吐きやすいため、15~30度程傾斜をつけた状態で眠っていた)そのまま朝まで寝たりすると、さすがに痛いけど。

それで劇的になにか改善したかときかれたら、否。だけど、気休め程度に心地よくなったきがして、わりとこれは続けてやりました。

まあなにもかも気休めですわ。吐き気止めの薬も。デンタルリンスも。気休めのカードを一枚ずつ手元にふやしながら、悪阻の苦しみを少しでも耐え忍びやすくしていく。それがこのときの、「最善を尽くす」ということ。

 

つわりつわりつわりでいっぱいいっぱいの、ここに加えて、まさかの双子・まさかの多胎という、もうひとつわたしを悩ませる要素があり、肉体的のみならず精神的にも追い込まれている時期でした。

車を買い換えなければいけないことや、育児グッズなども上の子のおさがりだけでは足りないこと、教育費のこと、生活費のことなどお金の面。となると、夫婦の働き方についても考えなおす必要がありました。

また、私も夫も、それぞれの両親も二人きょうだいで、三人きょうだいというものに馴染みがなく、想像がつかない不安。そもそも三人も育てる器が私にあるのか、私は三人もの子の親としてふさわしいだろうか、育てることができるのだろうか、という漠然とした怖さ。

という細々した、しかしまだうまくまとめられない不安の数々は、随時きてくれる看護師さんにぽつりぽつりと漏らしてアウトプットすることで、不安の濃度を薄めていました。話しても状況はかわらないけど、話すことで、自分のおかれている状況を俯瞰できる面積が増える感じがして。同じことをいろんな看護師さんに繰り返しぽつぽつ話していた気がします。